休診変更のお知らせ

横須賀市立うわまち病院 病院長より



横須賀市立うわまち病院 病院長

現在、日本の地域医療は崩壊の危機に瀕しています。その理由は大きく分けて三つあります。
第一に、日本の医療の将来のビジョンが明らかでは無いことです。何処へ向かって進むべきか、誰も示していません。一緒に考えましょう。第二に、医療機能の分化ができていないことです。大病院に一次の患者さんが当たり前のように受診しています。大病院が本来の役割を忘れて、かかりつけを優遇し、紹介患者をおろそかにしたりしていないでしょうか。第三に、医療の公的役割に対する理解が低いのではないでしょうか?特に昨今の自治体病院などでは、医療の内容より、経済的指標に過剰な重きを置きすぎているのではないでしょうか?また、医師は公的役割を忘れて、興味の向くままに専門を決めたり、病院勤務医不足を知りながら開業に走ったりしていないでしょうか。

地域医療を24時間カバーしているのは病院であり、その点において責務の重さ、期待の大きさは計り知れないものがあります。さらに、社会は医療の質に対する関心が大変強くなり、マスコミは医療従事者の責務を強調する余り、過剰な要求、場合によっては間違った要求にも繋がっているようです。一方では、病院勤務医の多くは勤務の過酷さに対する酬いが低いと感じており、病院勤務を忌避する医師の増加の原因になっています。

我々は、市民の要求に応え、世論を味方につけることができるか否か踏ん張りどころと考えています。世論が間違っている、いや医療従事者が甘いと主張しあうだけでは解決はありません。我々は医療におけるaccountabilityとpermeabilityをstandardと考え、risk managementにも力を入れています。我々は過剰な要求にはきちんとした説明を行い、お互いの求めるものと提供するものの方向性の違いについては、積極的に互いを合致させることが重要と考えています。例えば、循環器科は心臓リハビリテーション教室を通じて多くの患者さんや家族と障害を通じてコンタクトをとり、小児科は若い母親に子供の急病時の対処法を教育し、各科は市民公開講座を通じて広く患者ではない市民と接触を忘れないようにしています。
我々は、決して新しい建物を持っているわけではありませんが、医師、看護師その他の職員の能力(知識や技術)を合理的かつ効率的に集約し楽しく運営することによって、経営は非常に良好です。このことが、研修において様々な余力を生んでいくことは間違いないと存じます。

一方で、我々は世論を気にし、目の前の患者さんの声を聞きながら職員の生き甲斐を考え、専攻医にも研修を続けていくための希望を与えなければなりません。そのような中で現在我々が到達した教育の基本方針としては、「手取り足取り指導することも重要であるが、指導医師あるいは指導するものが自らの診療、研究、学ぶ姿を着飾ること無く晒すことが重要な教育実践である。教えられて学ぶ姿勢から(teach-taught)、自ら学ぶこと(learn)、そして新しいもの・ことを自ら確立する(研究する、study)力を身につけさせることが重要である。そして、医療のみならず個人・社会・国家・経済・法律・科学そのほか様々な物事・時代・場面で困難に遭遇しても、冷静沈着に情報を集め、意見を聞き、調べ、自分で考え、そして判断することのできる医師を育てる。」ことにあると考えています。

我々は教えることを放棄した訳ではなく、医学知識は膨大で、寧ろ積極的に教えなければなら無いと考えています。ただ、教えることだけではこの膨大な知識を網羅することは困難で、自ら学ぶことなしには知識の獲得はできません。さらに、自ら考えて研究し解決することを知ってこそ、長期にわたる医師としての生涯を全うすることができると考えています。教えることだけが教育であるというような昨今の風潮に対して反省はしていますが、過去の教育法に戻ってしまえというわけではありません。

古来より、ガリレオは法律や宗教と科学的真実が必ずしも一致しないことを訴え、日本でも大村益次郎のように明治維新に大きな影響を与えた医師もいました。私が医師になって以来、教育法も内容も大きく変わりました。新しいparadigmに歓喜賞賛し、しがみついても、すぐに次のparadigm changeが訪れます。このようなことに対応できるのは、前述したように自ら考え、判断できることです。このために最低限必要なことは、基本的なliteracy とlogical thinking であり、専攻医希望者に求めたいと考えています。

当院は、今後も地域医療と医師のみならず看護師、薬剤師をはじめとして多くの職種の教育、研修をまじめに行なっていきます。